宮本起代子のアーカイブ
九十九ジャンクション「本間さんはころばない」
- 2014年12月3日 13:30
- 宮本起代子
◎そして、飯島君にさようなら ~こんにちは、土屋さん~
宮本起代子(因幡屋通信発行人)
【九十九ジャンクション】
この風変わりな名の演劇ユニットは、プロデューサーHこと原田大輔、ツクモ芸能編集長こと大竹周作によって結成された。ふたりはいずれも演劇集団円所属の俳優である。公式サイトには「演劇づくりの各セクションに一切の制限を持たず、演劇界だけでなくあらゆる分野からの参加により、新たな風、新たな流れ、新たなワールドを生み出すことを掲げ、発足」とある。プロデュース形式をとり、書き下ろし作品を中心に今後5年間活動するとのことだ。
おもしろい企画やリクエストを「大募集!!」と呼びかけつつ、原田大輔がうんと言わなければ採用されないというから、ゆるいのかきついのかわからない。しかし新人劇作家デヴューのチャンス、新作の本邦初演の場にもなりうるということであり、大いなる可能性を秘めているわけである。
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小西耕一ひとり芝居「既成事実」
- 2013年7月3日 13:45
- 宮本起代子
◎俳優の仕事-虚構と現実をむすぶ鍵-
宮本起代子
【俳優小西耕一のこと-荒野に立つ四男-】
小西耕一の出演した舞台は、2010年春elePHANTMoon(以下エレファント)公演『ORGAN/ドナー編』(マキタカズオミ脚本・演出)や、2011年秋同じくエレファント公演『業に向かって唾を吐く』などをみている。いずれも物語の脇筋や副筋に位置し、堅実で的確な演技をする俳優という印象をもった。
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鵺的「荒野1/7」
- 2012年10月3日 12:58
- 宮本起代子
◎劇作家の幸福
宮本起代子(因幡屋通信発行人)
【肉親を題材にすること】
劇作家高木登の母上のきょうだい7人は事情があって離散したのち、母上が中年にさしかかったころに長兄の尽力で再会を果たした。その後のおじやおばたちの人生は非常に厳しいものであったらしい。公演チラシには、「この程度の不幸はよくあることだが、あいにく彼らは自分の血族だった」と記され、「家族なんていらないという伯父の肉声に応えるように、導かれるように書いている」と続く。
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studio salt「八OO中心」
- 2012年6月27日 16:11
- 宮本起代子
◎演劇的一期一会-今夜からの隣り人
宮本起代子(因幡屋通信発行人)
タイトルは「はちまるまるちゅうしん」と読む。
椎名泉水を座付作家・演出家とし、横浜を拠点に活動するstudio salt(以下ソルト)が最新作の会場に選んだのは、ずばり八OO中心という名のビル最上階だ。中華街の延平門から歩いて数分のところにある。「横浜中華街より世界へ向けて、表現でのコミュニケーションをはかるべく始動したシェアオフィス」(公式サイトより)として、昨年2月にオープンした。この風変わりな名は無限の数を表す「八百万」「∞」に由来し、さまざまなものが集まって円を描くようにつながり、世界に向かって発信したいという願いがこめられている。
観光客がいっぱいのにぎやかな中華街の一角で、ソルトは週末3日間の上演を4週間行った。
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シンクロ少女「未亡人の一年」
- 2012年2月1日 10:33
- 宮本起代子
◎夜道の誘惑~シンクロ少女の示すもの~
宮本起代子
演劇ユニット・シンクロ少女は2004年、当時日本映画学校映像学科在学中だった名嘉友美を主宰に結成された。現在のメンバーは脚本・演出・出演の名嘉をはじめとして、俳優の泉政宏、横手慎太郎、中田麦平で、作品ごとに出演者を募る形式をとる。公式サイトには「『愛』と『性』、『嫉妬』や『慾』など、目に見えない感情や欲求をテーマに見た人の血となり肉となる作品を目指して公演を打つ、エロ馬鹿痛快劇団」と記されている。『私はあなたのオモチャなの』で旗揚げし、以後も『ドキドキしちゃう』、『めくるめくセックス』等々、タイトルからして挑発的だ。
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ミナモザ「ホットパーティクル」
- 2011年11月16日 10:36
- 宮本起代子
◎あなたが立つ場所
宮本起代子
【311と瀬戸山美咲】
ミナモザにしては珍しい、写真による新作公演のチラシ。
道路のまんなかに少しからだを斜めにして立ち、強い視線を向けているのは作・演出の瀬戸山美咲その人である。空はひろく、木々の緑が美しい。ノースリーブのワンピースにヒールの高いサンダル姿はリゾート気分いっぱいだが、両脇には「立入禁止 福島県」の立て看板が、絶対的な権威のごとく行く手を阻む。彼女がすっくと立つその地は、東京電力福島第一原子力発電所から何キロの場所なのか。
裏面には3月11日の東日本大震災で劇場の中より外がはるかに劇的になり、新作の台本が書けなくなってしまった劇作家の告白がぎっしりと記されている。
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オクムラ宅「かもめ 四幕の喜劇」
- 2011年8月3日 17:35
- 宮本起代子
◎二年間の休憩-いつか「かもめ」が飛ぶ日のために-
宮本起代子
「オクムラ宅」は俳優・演出家の奥村拓が主宰する演劇ユニットである。
二〇一〇年年四月、『紙風船・芋虫・かみふうせん』で旗上げした。
岸田國士の『紙風船』をまずは原作通りにきっちりと作ったものをみせ、江戸川乱歩の『芋 虫』をベースにしたオリジナル作品をはさんで、最後にオクムラ版『かみふうせん』を披露した。きちんと和服を着て端正に『紙風船』を演じた夫婦(横手慎太郎/発汗トリコロール、名嘉友美/シンクロ少女)は、『かみふうせん』では着くたびれたスウェット姿になり、場所は現代の都会、マンションの一室らしい。何らかの事情で引きこもり状態になった夫婦が現実と妄想のあいだを行き来しながら、妻は圧倒的な暴力で君臨し、夫は卑屈に耐えながら遂には妻を殺害してしまう。台詞はまったく変えていないのに、状況設定と俳優の造形によって劇世界がこうも変容するとは。予想外の演出に驚嘆しながらも「これはどうしたものか」という困惑があり、何に対してかはわからないが罪悪感のようなものも入りまじって、複雑で刺激的な夜になった。
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声を出すと気持ちいいの会「覗絡繰-ノゾキカラクリ-」
- 2011年1月12日 15:17
- 宮本起代子
◎粗削りと老練と
宮本起代子
演劇集団「声を出すと気持ちいいの会」、通称「コエキモ」は2008年5月明治大学の学生を中心に旗揚げし、これまで5回の公演を行っている。当日リーフレット掲載の挨拶文によれば、主宰で作・演出の山本タカいわく「心の琴線に触れる芝居というものを、がむしゃらに追い続け、打ち続けて」きたが、公演を重ねるにつれて現状に疑問をもち、「全てをゼロに戻す決意をし」、「もっと素直に芝居を作ろう」との思いから、番外を打つに至ったそうである。自分にとってはじめてのコエキモ体験で、しかもいつもとは違う特別な一本に出会えるらしいが、劇団に対する予備知識はまったくのゼロであり、山本タカについて「まだまだ粗削りな部分もあるが、寺山修司のような、野田秀樹のような空気のある芝居」という情報を得たのみであった。
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elePHANTMoon「ブロークン・セッション」
- 2010年1月28日 18:52
- 宮本起代子
◎絶望の中の爽快感
宮本起代子
どこかの家のダイニングキッチンで、男女が向き合って他愛もない会話をしている。男性はタクシー運転手で(酒巻誉洋)、女性はこの家の主婦らしい(真下かおる)。奥の部屋から微かに呻き声が聞こえ、やがてビニール袋をからだにかぶり、手にもビニールのグローブをした女性(松葉祥子)が現れる。ひと仕事終えた印象だ。ビニール袋もグローブも何かで汚れており、それを慣れた手つきで脱がして受け取る主婦。そのあとから夫らしき男性(永山智啓)が出てきて、「殴るいくら、蹴るいくら、あと剃刀の損傷とタバコの火傷」と会計のようなことを始め、女性は合計金額を支払い、夫はそれをいったん状差しの封筒にしまったあとで、またその金を女性に返す。 その行為が何なのか、奥の部屋には誰がいて何が行われているのかが少しずつ明らかにされていく。いや、もしかしたら自分はもっと早くにわかっていたのかもしれないのだが、考えついたことがあまりに病的で暴力的なために、薄々気づく一方で「まさかそんなことが」と否定しながら舞台に前のめりになっていた。
劇団掘出者「誰」
- 2009年3月22日 17:47
- 宮本起代子
◎覚悟と楽しみをもって、思い悩もう
因幡屋きよ子(因幡屋通信発行人)
劇団掘出者の舞台をみるのは、昨年春の『チカクニイテトオク』に始まって秋の『ハート』と続き、今回の『誰』で3本めになった。およそ半年ごとに次々と新作を発表しており、作・演出の田川啓介が劇作家として伸び盛りであること、劇団としてのフットワークの強さを感じる。しかし初日に観劇した直後は「困ったな」というのが正直な気持ちであった。それは「これはフィクションなのか、それとも同じようなことが現実の大学生にも起こっているのか」という極めて初歩的な困惑だった。舞台をみるとき、その世界が現実に則したものとして受け止めるのか虚構を楽しむものか、自然に感じ取れれば楽なのだが、『誰』は判断できなかった。千秋楽近くに足を運んだ知人も似たような感想を漏らしており、舞台に描かれている世界を受け止めるのがむずかしかったことがわかる。だんだん心配になってきた。こういう舞台を作る田川啓介さん、あなたの心は大丈夫なのでしょうかと。
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