廣澤 梓のアーカイブ
連載企画 観客が発見する 第4回(座談会)
◎観客の世界を開く
澤田悦子・田中瑠美子・黒田可菜・廣澤梓(発言順)
―ワンダーランドのとりあえず最後の企画は、観客から見た演劇を明らかにしたい、という狙いがあります。今回、芝居に関心がある人で、話していただけそうな人を選んだら、たまたま女子会になった(笑)。みなさんはワンダーランドの「劇評を書くセミナー」に参加しています。顔見知りだとは思いますが、あらためて演劇に関心を寄せているわけ、何が劇場に向かわせているのか、ご自身と演劇の関わりについてお話いただくところから始めたいと思います。
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SPAC「グスコーブドリの伝記」
- 2015年2月25日 13:57
- 廣澤 梓
◎さまよう目がたどりつく「グスコーブドリ」
廣澤梓
その上演は遠く、焦点が定まらずに目がふらふらして輪郭がぼやける。つまりは、よく「見えない」。視界を遮るものはなかったし、見るのに遠すぎたわけでもない。SPAC『グスコーブドリの伝記』を鑑賞したのちに残ったこの感覚は、観劇において見えるということがどういうことなのかを教えてくれる。見ることとは、はっきりと近くに全体を通して、ということだ。近くに、というのは物理的な距離だけでなく、心理的な隔たりでもある。また見えなさは目に宿る、見たいという欲望にも気づかせてくれる。満たされることなくさまよい続ける目は、わたしを「考え続ける」ことへと導く。
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チェルフィッチュ「スーパープレミアムソフトWバニラリッチ」
- 2015年1月28日 13:40
- 廣澤 梓
◎うすっぺらいかもしれないわたしたちの、ささやかな抵抗
廣澤梓
職場から90分ほどかけて帰ってきた最寄駅の、改札を出てすぐ右手に見えるコンビニに寄ると、おじさん3人が今日も働いている。若者バイトの入れ替わりが激しいのに対して、彼らはもう5年以上はいる。ひとりは必要のない割り箸やプラスティックのスプーンを、手当たり次第レジ袋に突っ込んでくる。ひとりは昨夏になって急に、客がレジに持ってきた商品に対してコメントをするようになった。もうひとりはうっとりする美声で、その接客、商品を扱う手つきに気品すら感じる。
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東京デスロック「CEREMONY」
- 2014年8月20日 13:30
- 廣澤 梓
◎見る/見られるをめぐるダンスフロアー
廣澤梓
「観客という集合体を構成する個人は、それぞれ社会から〈離れて〉劇場に〈出かけ〉ていくが、劇場では一個人としてではなく集団として反応することで、社会の役を演じることになる。」 —リチャード・シェクナー「儀礼のゆくえ」『パフォーマンス研究—演劇と文化人類学が出会うところ』
劇場に入ると床には、マゼンダとシアンの影が左右にブレて落ちている。立体視のできるメガネをかけているかのような視界と、天井で回るミラーボールが遠近感を狂わせる。冷静でいようとしてかえってやってきた緊張を解きほぐそうと、わたしは開場時間のBGMとしては大きすぎる音楽に身体を揺らした。
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蓮沼執太フィル 「音楽からとんでみる4」全方位型フィル
◎「ステレオ」のパフォーマンス空間
ラモーナ・ツァラヌ/井関大介/廣澤梓
TPAMへの2度にわたる招聘や快快への楽曲提供など、舞台芸術との関わりも深い音楽家・蓮沼執太。彼による15人編成のオーケストラ「蓮沼執太フィル」は2010年の結成以来、ライブベースの活動を行ってきました。そこでは集団性や観客を含めた場の創造という観点において、今日の演劇を考える上でのヒントを与えてくれるように思います。この度、4月27日(日)の「全方位型フィル」と題されたライブに立ち会った3名によるライブ評を掲載します。(編集部)
○解放感のサウンドスケープ—蓮沼執太フィル公演『音楽からとんでみる』
ラモーナ・ツァラヌ
○作者をこれ聖と謂ふ—音楽共同体への憧れと蓮沼フィル—
井関大介
○もう一度、集まることをめぐって
廣澤梓
連載「もう一度見たい舞台」第3回
◎庭劇団ペニノ「アンダーグラウンド」
廣澤 梓
22時の東急東横線の車内で、わたしの隣に座り眠っていた若い女性がケロリ、と嘔吐した。「ん、ん」とかわいらしい声をあげ、女性のからだが大きく2回波打ったのちのことだ。ゆっくりと目を覚ました彼女は自分に起きた異変を察して、口元に手を当てて指先の湿り気を確認すると、タイミングよく停車した電車から降りて行った。
からだ全体が揺さぶられるほどの出来事を、女性は触覚という別の回路を使ってしか理解ができなかった。驚きと恐怖が混ざった感覚はいつまでも残り、すれちがう人たちひとりひとりの腹部に水をたたえた袋があることを想像して青ざめながら、わたしは過去に見たある芝居について思い出していた。
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中野成樹、長島確「四谷雑談集」+「四家の怪談」
- 2014年3月19日 13:30
- 廣澤 梓
◎幽霊は鼻歌に乗って
廣澤 梓
パフォーマンスの全日程が終了した2013年11月24日の夜、Twitterの中野成樹+フランケンズのアカウントによって、作品の公式応援ソングだという「あ・お・ぞ・らDestiny」の配信がスタートしたことが知らされた。上演中に何度か聞いた「待ってて」が繰り返されるサビの部分と、決して上手いとは言えない女性ボーカルは耳に残っていた。
それが今ではわたしのパソコンのデスクトップ上にあって、アイコンをクリックすればいつでも聞くことができる。またその歌詞を口ずさみ、この物語を「降ろす」ことができる。
◇墨田区在住アトレウス家 Part 1&2/豊島区在住アトレウス家/三宅島在住アトレウス家《山手篇》《三宅島篇》
◎アトレウス家の過ごし方 その3(座談会)
斉島明/中村みなみ/日夏ユタカ/廣澤梓
■わりと普通になってしまった
廣澤:10月にワンダーランドに掲載した「アトレウス家の過ごし方」その1、その2は、2010年より始まった「アトレウス家」シリーズについて、それらを体験した観客の側から、思い思いに過ごした時間を示し、また考えることはできないか、と企画したものです。
>アトレウス家の過ごし方 その1
>アトレウス家の過ごし方 その2
今日はその執筆メンバーに集まっていただきました。この座談会について、まずは発案者の日夏さんよりお話いただけますか。
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『観る身体』身体×カメラワークショップ by 岩渕貞太
◎ダンスを観る、撮す、生まれる
日夏ユタカ×廣澤梓
●踊らない、ダンスのワークショップ
それはちょっと珍しいダンスのワークショップだった。参加者がまったく、踊らないのだ。いわゆる、ダンス的な動きを求められることもない。
それでも舞台はあって、照明も灯り、録音された音楽が流れるなか、ダンサーの岩渕貞太がひとり、踊る。それは以前、おなじくSTスポットで上演された岩渕の作品である『living』のワンシーン。時間にすれば10分程度、それが3回繰り返された。
ワークショップの約10名ほどの参加者は、1回目は、設えられた観客席にただ座って、岩渕が踊るのをみていた。2回目と3回目のダンスについては、持参したカメラでその様子を撮影する。
ただし、『living』はその場で繰りだされる音を聞きながら即興的に踊る作品である。また、岩渕の作品は、本人曰く、「触媒によって変わるところがあるダンス」でもある。ワークショップではCDにパッケージ化されている音楽※を再生し、それ自体は変化しないものの、作品の特性上、写真を撮影する参加者が発する音や気配、動きにも影響されるため、3回とも、似てはいるけれども、まるでちがうダンスになる。
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アートネットワーク・ジャパン×東京アートポイント計画「豊島区在住アトレウス家」
ミクストメディア・プロダクト×東京アートポイント計画「三宅島在住アトレウス家」
◎アトレウス家の過ごし方 その2
廣澤梓/斉島明
『墨田区在住アトレウス家』はPart 1,2ののち、2011年3月にPart 3×4が予定されていたが、折しも起こった震災によって中止となった。それまでの上演場所であった2階建ての木造家屋「旧アトレウス家」を離れ、作品は大きく変化する。住居ではなく公共施設に、さらには本土を離れ三宅島に住むことになった一家の物語は、「家やまちを見つめ、考える」プロジェクトとして、より一層その性格を際立たせていくこととなる。
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