ミクニヤナイハラプロジェクト「桜の園」

◎2Φ14:気の毒でもすてきでもないエージェント人たち
高橋英之

桜の園チラシ画像 笑った。2度目の観劇で、やっと。しかも、かなり。

 最初の観劇では、まったく、笑えなかった。それは、よく言われるように、原作者チェーホフが『桜の園』を“喜劇”とした理由がよくわからない[注1]…というような理由ではなかった。ミクニヤナイハラが、その『桜の園』をモチーフとして現代の東京に展開してみせた作品は、自分の痛い部分にストレートに差し込んできた。当事者間の正当な売買の結果、長くその地にあった桜の木を、別の場所に移す。単にそれだけのことじゃないか。その単純なことに、過剰な意味を込める闖入者を登場させ、感傷的な言葉を吐かせるミクニヤナイハラに、自分自身のそっとしておいてほしい心の傷口を、無遠慮に広げられた気がした。拍手もせず、上演後のトークもすっ飛ばして、劇場を後にした。現実の世界で身に着けた心の鎧は、堅牢すぎて、笑いも感動も寄せ付けず、過剰な防衛反応だけがおきていた。ちょうど、海外の開発案件を進める中で、3つの訴訟に巻き込まれ、2つ勝ち、1つ負けたばかりだった。

 にしすがも創造舎の屋外。工事用やぐらの上、体育館の上、そして倉庫の上と、3つの離れ離れの場所に、登場人物が現れる。体育館の上から、拡声器で、女(笠木泉)が語り掛ける。東京には木々がたくさんあるように見えるが、そうではないのだと。よく見かける桜はソメイヨシノであって、日本古来のヤマザクラは、希少種なのだと[注2]。それゆえ、自分は、この場所にある桜を守りにきたのだと。ミクニヤナイハラは、土着の桜を守ろうとする存在を、<緑を守る会>を名乗る女に担わせた。当事者ではない、よそ者に。
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KJプランニングス「ザ・モニュメント 記念碑」

◎直接的であることと代行すること
 清末浩平

「ザ・モニュメント 記念碑」公演チラシ1.「ザ・モニュメント 記念碑」

 前置きをしている場合ではない。ただちに私が観たものについて述べよう。
 小さな劇場は壁も床も剥き出しになっている。舞台側の壁際には、廃物めいたさまざまな道具が無造作に置かれており、その内側に、細いひもでアクティングエリアが仕切られている。「私はハッピーだ」と歌う能天気なダンス曲が流れている。舞台奥には配線を露出したモニターがあり、その画面に、世界の各国で踊る人たちの姿が次々に映される。やがて音楽が消え、モニターも真黒になる。男女1人ずつの俳優が舞台に入って来る。「THE MONUMENT/記念碑」という字幕がモニターに映されて劇が始まる。
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